ネットとリアルの店を行き来して

 

「どこらへんで洋服買ってるの?」その質問は、洋服が欲しくてぶらぶら繰り出すとき、どういった街のどういったお店に足を向けるのか訊かれているのだと思う。思うと同時に、ここ2年はそんな歩き方をしていないことに気づく。質問はリアルで買い物をする人が前提だ。ここ2年は、インターネットで目星をつけて、返品できる商品なら実際に買って着てみる(返送料はお店までの交通費と考えればイーブンだしむしろお得だ)、返品できない商品なら下調べを重ねて「ポチッとカートに入れて、決済に進む」気持ちに勢いを乗せるか、行動圏内に実店舗があれば仕事なんかとあわせてお店に行くことのできる隙間時間を探して予定に書き込む。私の答えは「大抵インターネットですね」。

山内マリコさんの「買い物とわたし」は洋服に限らず、ロンシャンのナイロントート、シュット!インティメイツの下着イノベーションなど「どこにでても恥ずかしくない30代」のポップなお買い物エッセイ。日常をすこし背伸びしたような買い物話は聞くのが楽しい。私は友人によく「ここ最近の一番の買い物」を訊ねる。ということで、すぐにインスパイアを受ける20代のお気に入りの買い物をメモしてみる。冒頭の通り、ネットを起点にリアルで買い物をしています。

 

  • KEIKO MECHERIの香水「PEAU DE PECHE」

 香水を変えたくて、清潔な香りということだけ決めて、桃の香りに行き着いた。山内マリコさんの本にきっかけをいただいたこの流れにふさわしく、お伊勢丹で試してレジに。いやらしくなくて、色気がある、いい香り満載。ビンも上品で、外に出かけるためのスイッチとして気分を高めてくれる。

 

  • BARE FOOT DREAMSのシングルブランケット / stone

 大げさな響きだけれど、一生もののブランケットを見つけるきもちで。なんだろう、どうしてずっとこんな柔らかでいられるんだろう、と、それが仕事のはずのブランケット相手に毎夜思っています。2年経っても裏切らない、むしろ絆を深める安眠の味方。

 

  • MOTHER HOUSEのビジネスバッグ「アンティーク クラシック ビジネス」

 復職のお祝いに。購入当初はあまりにもカッチリとしていて、私には上質でビジネスライクすぎたかと感じていたのを懐かしく思えるほど、レザーが自分の肌に馴染んで、いい具合に変わりゆく経年変化がたまりません。勝負するときはこのバッグがいい。

 

  • Lunorの丸メガネ

 有給をとって過ごしたクリスマスに友人と「いい買い物をしよう」と思い立ち、ピンときたまま銀座のセレクトショップという名の清水の舞台から飛び降りた。始めは気恥ずかしかったけれど、丸メガネの日々は新鮮で、今では丸メガネの人を見かける度に「いいよね」と共感しています。

 

  • ロベルタ・ピエリのラージトート / tatami

 今年の誕生日に。山内マリコさんはパリでロンシャンのナイロントートを買っていたけれど、私は東京駅でロベルタ・ピエリを初めて見かけてから「絶対こっち」と目をつけていました。耐久性に優れてていてA4書類もPCもへっちゃらで、落ち着いた色合いが多い格好の癖づけにも一役買うなんて、優秀すぎる。仕事用にもプライベートにも、さっと肩に引っ掛けて出かけている。

 

なんて5つの買い物をメモしたところで、他にもとっておきの買い物はあるだろうかと自室を見渡した。ほとんどを常にお気に入りにアップデートしていっているため、とっておきでないものがほぼないように感じた。最高の眺めである。

それではこれからのとっておきの買い物は、というと、5月に届く予定のAmeri VINTAGEのトレンチコートをたった今心待ちにしている。トレンチコートは毎春悩んでいて、悩んで調べ尽くしている間に今年も春を迎えたため、26年目にして初めて購入した。このトレンチコートは予約商品であったため、冒頭でいうところの調べに調べを重ねて、実物を見る前に気持ちをジリジリとジェットコースタの登りのように、買いたい着たい思いを膨らますに膨らませて、ようやく1週間前に決済に進んだトレンチコートである。5月も中旬になれば、お店から「お待たせしました。商品を発送しました」とメールが届いて、ヤマトだったら「お荷物が届きます」の連絡がLINEできて、ヤマトでなければポストを確認する朝夕が始まり、ポストに不在票が入っていれば宅配ボックスに入れてくれたか確認し、どうしてか宅配ボックスに入れてくれない業者であれば、QRコードを読み込んで再配達の連絡を迅速に行い、ようやく届けば、届いたダンボールを机の上で鋏も使わずにコツを抑えてガムテープを剥がして、紙切れの領収書は端に追いやり、透明のビニールに包まれて折りたたまれたトレンチコートを目で見て、ビニールの留めをそっと破って、いよいよ右手で吊るすように持ち、全体像を掴み、着ているものがパジャマでなければさっと上に羽織り、「これかあ」と鏡の前でためつすがめつする日を心待ちにしている。