スーパー銭湯の近くに住みたい

どこの銭湯にも「赤鬼」がいる。鬼は赤い顔をして、水を出したままにするこども、お風呂を走り回るこども、うるさくするこども、そんなこどもたちを次世代の教育のために怒る。今の世の中は不安な方向に向かっているような気がしてならない。だからこそ、今の時代にスーパー銭湯を始めました。

というような、メッセージが壁に記された銭湯に入った。最近は銭湯好きだと公言する人が増えてきて、プチブーム到来を感じる中でのこのメッセージ性とブームになる背景の合致はあるのか、すごくあるのか、それともないのかイマイチわかっていない。と思っていたら、同じお湯に滑り浸かるように入ってきた女性に声をかけられた。「もうひとつ?」私は膝に1歳のこどもを抱いていた。「ちょうど1歳です」

女性はいないいないばあや小さく湯を叩いてこどもをあやし、笑顔を見せるどころか泣きそうな顔になるこどもに「警戒心が強いのはいいことね」と言う。こどもが1歳になり、こうして通りすがりの人からこどもに声をかけてもらえるようになって1年、こどもを前にした年配の人がすべてをポジティブな言葉に変換する技術のことをなんて形容すべきか私はまだ自分のものにできていない。

「うちのもね、もうすぐ3歳なの」お孫さんですか、と言いそうになって、決めつけてはいけないな、と自分を諭している間に「そうなんですか」とだけ応える。「孫のお母さんがね、すごいの。この間なんて孫が私に怒って、ポカンって殴ってきたのね。私はすぐコラ!駄目でしょう、って言ったんだけど、そうしたらお母さん、お嫁さんがね、すみませんお義母さん、そういう頭ごなしの怒り方はやめてください、っていうの。それでどうするのかしら、って思っていたら、根気強く聞くの。そうやったら、おばあちゃん痛いでしょう、何がイヤだったか言葉で伝えてみよう。って。すごいわよね、根気強いの。お母さんも賢いのよね、それでこどもも賢くなるんだと思うわ」シャワーの音と湯けむりに負けないように声を張って、「それでちゃんと考えて伝えてくれるんですか」って聞いてみる。「うん、しっかりじーっと考えるの。こどもも辛抱強くね。うちの孫は賢いと思うわ」タオルを頭に巻いてニコニコ私から目を逸らさずそう話す。膝に抱いているこどもが目をこすったのを機に、「ありがとうございました」「ねむいわね、体温が違うからのぼせないようにね」で、私とこどもは火照りを取るためにぬるい露天風呂に向かう。ああ、火照り、ほてり、はラジウム温泉のおかげだけじゃないと思う。

 

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