とびきりの本棚

「好きの棚卸し」をブログでしている方を見つけ、読むのが楽しく手が止まらなかったので私も小説・エッセイから。10選としたら。

愛情生活 (角川文庫)

愛情生活 (角川文庫)

 

荒木陽子さん「愛情生活」

荒木経惟さんとの愛情生活。1997年版ですが、最近文庫も出版されていました。宿泊しているホテルでの食事に出るためにシャワーを浴びて、化粧をし直して、宝石屋を横目にレストランで待ち合わせる陽子さん、ひどく魅惑的です。じっとりした「夫婦だな」を感じるため息。 

なぎさホテル

なぎさホテル

 

 伊集院静さん「なぎさホテル」

荒木陽子さんの作品ともリンクしますが、本当に、これが人生なんだとしたらなんてことだろうと思う。荒木陽子さんの人生も伊集院静さんの人生もまるで小説みたい。この他、「浅草のおんな」も風情がある小説で何度も読み返しています。

静子の日常 (中公文庫)

静子の日常 (中公文庫)

 

井上荒野さん「静子の日常」

装丁に侮るなかれ。あらすじ「スイミングプールに通うことが趣味のおばあさんの日常」なんて、全然面白くないのに、読んでみると、こんな風に過ごせたらもう何も言わない、って言ってしまいそう。何も起こらない日常というものが大好きになります。もう過ごしているはずなのに、過ごしたくなります。

かなわない

かなわない

 

植本一子さん「かなわない」

ただ日常を書く行為とドラマチックは基本的には相反するはずなのに、植本さんが何をどう表現しているのか理解しきれないまま、連作を読みました。他人に勧めるとして、なんて言葉をつけたらいいのか分からないけれど、愚かであることはだめなことではないのかもしれません、ぜひ。

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

 

 江國香織さん「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」

江國さんはやっぱりずっと文学のミューズ。各年代で好きなタイトルも移ろいますが、今選ぶとしたらこの1冊でお願いします。江國さんは文章もいいけれど、タイトルもずっといい。「いつか記憶からこぼれおちるとしても」「号泣する準備はできていた」「流しの下の骨」なんて、タイトルでもう物語になっているじゃないですか。

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

ハヅキさんのこと (講談社文庫)

 

川上弘美さん「ハヅキさんのこと」

ひっそりと、大切に書かれた文章を読める幸福を味わいます。川上弘美さんの「センセイの鞄」も食事のシーンが想像に素敵で好きだったけれど、この作家さんの短編は一つ一つが静かにすっとおさまり、少ししか小説を読むパワーがないときの薬みたいに思っています。

ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)

ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)

 

 原田マハさん「ジヴェルニーの食卓」

ご経験からテーマ特化型の小説に強すぎる方だと思いますが、そこはどうして美術が主戦場。美術に対する愛が文章をより進ませていると感じます。この小説を読んでから、美術館に行くたび、その作家たちの人生を思います。 原田マハさんは筋立ての上手なストーリーテラーで、夢中になりたいときに探す作家さん。

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

平野啓一郎さん「 マチネの終わりに」

 帯についていたのか、誰かがコメントを添えていたのか定かではありませんが、本当に、しとしと雨が降る中暖かな室内で読むのにぴったりの小説。ピアノの音が実際に聴こえてくるように沁み入り、雨とピアノは音にも画にも味ある組み合わせ。

火山のふもとで

火山のふもとで

 

松家仁之さん「火山のふもとで」

新潮社でずっと編集者をしていらした松家さんの1作目。瑞々しさ、というのならこの1冊を挙げたくて、避暑地であった軽井沢の別荘にいる空気を感じることができます。その空気をずっと吸っていたくて惜しむように残りのページを読む本です。こういった、振り返れば奇跡のひとときって人生にあるものですよね。

蛇行する川のほとり〈1〉

蛇行する川のほとり〈1〉

 

恩田陸さん「蛇行する川のほとり」

12歳、人生で初めて読んだ小説。読み返した回数も比例して多くなりますが、初めてのときから印象に残るシーンが変わっていく体験を面白く感じています。昔は少し年上の登場人物のハッとするシーンが怖くて怖くて、その分だけ読み飛ばすなんてこともしていたけれど、今となってはみんな年下、その切実性を懐かしく思う。

 

好きな本の装丁がこうして並ぶだけでもうれしい光景です。小説でないとしたら、キャスリーン・フリンさん "ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室"、漫画なら、よしながふみさん "愛すべき娘たち"。映画なら "Girl,Interrupted(邦題:17歳のカルテ)"、"Sweet November"、"Babette's feast(邦題:バベットの晩餐会)"。17歳のカルテは生々しさが圧倒的で、大学の卒論の研究対象に選び、何十回も大学のビデオブースで再生していました。雑誌ではよく「カバンの中身」特集が組まれていて、なんとなくめを惹かれてしまいますが、そんなふうに人の厳選した「好き」を覗くのは面白く、私も好きな日常を綴ってみようと思い立ちました。